平成29年12月6日のNHK受信契約に関する最高裁大法廷判決

12月6日のNHKに関する最高裁の判決(事件番号:成26年(オ)第1130号,平成26年(受)第1440号,第1441号受信契約締結承諾等請求事件)、結果は現状維持でした。NHKの意図からすればNHK側の敗訴と言ってもいい内容であったとも考えられます。

 

この裁判は原告(NHK)が被告(一般の個人の方)に対し、「原告の放送を受信することのできる受信設備(以下,単に「受信設備」ということがある。)を設置していながら原告との間でその放送の受信についての契約(以下「受信契約」という。)を締結していない「被告」に対し,受信料の支払等を求める事案」でした。

 

NHK(原告)は、「原告による受信契約の申込みが被告に到達した時点で受信契約が成立したと主張」して被告の方が受信設備(テレビ)を設置したとされる、平成18年3月22日の翌月の同年4月以降の支払を求め、これに対し被告の方(一般個人の方)は「放送法64条1項は,訓示規定であって,受信設備設置者に原告との受信契約の締結を強制する規定ではないと主張し,仮に同項が受信設備設置者に原告との受信契約の締結を強制する規定であるとすれば,受信設備設置者の契約の自由,知る権利,財産権等を侵害し,憲法13条,21条,29条等に違反すると主張するほか,受信契約により発生する受信料債権の範囲を争うとともに,その一部につき時効消滅を主張して」争っていました。

 

最高裁判所は判決で、NHK側の主張(受信契約はNHKから申し込んだだけで成立する)を排斥し、『放送法64条1項は,受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり,原告からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には,原告がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め,その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。』として、判決で契約成立するとしました。今までどおり、契約締結を拒む方に対しては裁判での判決を持って契約締結の意思表示を擬制するという民法の大原則が守られたのです。NHKの主張が通っていたら一般消費者は大変な事になっていたはずです。なにしろ契約した覚えが無いのにNHKからの手紙が届いていたな~と思っていたら、受信契約に基づく受信料の請求書がいつの間にか届くようになってしまう可能性があったからです。請求書が届くだけでなくNHKから支払督促などの裁判手続きをとることも可能になります。一方的な通知で契約が成立するのですから、一般消費者の方は防ぎようがなく請求されるがままになってしまう可能性があったのです。

幸い、今回の判決により、NHKとの受信契約は今までどおり締結せずにおくことは可能となりました。NHKはどうしても契約を結びたければ裁判に訴えてテレビがあるということを立証(証明)しなければならないのです。これは今までと同じです。一般消費者の方からすれば、裁判で実はテレビが無かったということを証明するなどすれば、NHKと契約しなくとも良いとの判決を得られることになります。

 

また、被告(一般個人の方)による放送法の規定は憲法違反であり契約の自由の原則に反するとの訴えは『放送法64条1項は,同法に定められた原告の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして,憲法13条,21条,29条に違反するものではないというべきである。』として退けられました。これは今までの下級裁判所の判決どおりです。しかしこれは現時点の判断。刑法の尊属殺人や民法の非嫡出子の相続分などのようにずっと合憲の判断であったものが、時代の流れや裁判の積み重ねにより違憲との判決が下り法改正につながった例があります。今回の判決も将来、判断が変わる可能性もあるのです。まずは第一ラウンドといったところでしょうか。

ただ、受けて立つ一般消費者側としては「NHKとの契約を強制する放送法は違憲だ、契約自由の原則に反する!」と主張しても当面は裁判所に取り合って貰えないということです。有効な対策・反論材料がなければ、契約を拒否していてNHKから訴えられたら一方的に負けてしまうことを意味します。

 

裁判で契約を命じられた場合、受信料はいつから支払い義務が生じるかという問題についても、『上記条項を含む受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合,同契約に基づき,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するというべきである。』として今までの判例どおりさかのぼって受信設備(テレビ)設置時点からとなりました。普通は契約が成立してから契約に基づく義務が発生するわけですからここのところは結局いびつな状態が残ったわけです。

 

時効についても今までの判例どおりとなりました。判決文では、『したがって,受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(受信契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は,受信契約成立時から進行するものと解するのが相当である。』として、時効起算点は判決確定時(受信契約が成立するのが判決確定時)からとなり、裁判の中で時効援用しても認められないものとなりました。

簡単に言いますと、判決確定時(=受信契約成立時)にテレビ設置時からの受信料の支払い義務が確定するので時効期間の起算は判決確定時となるため、判決から時効中断事由なく時効期間(裁判によるものは10年)を経過しないと時効援用が出来ないということです。

これは今の法制度からすると当たり前のこと。裁判で判決を取られるということはそれだけ重い事なのです。

裁判手続きで支払い義務が確定・確認されるとそこから時効期間のカウントが始まり、しかも時効期間は10年となるのです。

今回の裁判は受信契約そのものを拒否して争っていたケース。ですので判決で受信契約締結となりました。これとは違い既にNHKと受信契約を締結し、受信料を請求されている状態でかつ裁判手続きを取られる前なら受信料の時効期間は5年であり、各月の受信料の支払期日の翌日から時効期間のカウントが始まります。ですので、5年以上前の受信料を請求されているなら、時効援用が可能となるのです。

この時効期間が「5年」というのも同じ最高裁判所の判決で認められているので、堂々と主張できます。

裁判手続きを取られる前に時効援用をしましょうと申し上げていることの意味がここにあります。

 

総括すると、NHKが一番求めていた(受信契約はNHKから申し込んだだけで成立する)は排斥され実質NHK側の敗訴、一般消費者側の憲法違反、契約自由の原則に反するとの主張は通りませんでしたが、現時点では致し方無いでしょう。支払義務の対象期間や時効については今までと同じですので変更された論点はありません。

今後も同じようにNHKとの契約拒否は可能で、後はNHKが「テレビがある」という証拠を握っていれば裁判を仕掛けてくるという構図です。簡単に言うと、「どうしても契約させたきゃNHKは裁判しなさい。契約したくないと言っても憲法違反とかそんな理由はとおりませんよ。」ということがはっきりしただけの話です。

 

では、一般個人の立場としてはNHKにどう対峙すれば良いのでしょうか。もちろん放送法の趣旨に納得して受信契約を締結し受信料を支払おうとされる方は問題ありません。

今回の判決の中で最高裁の裁判官の中のお一人が非常に興味深い反対意見を述べられています。ちょっと長くなりますが引用します。

『承諾を命ずる判決は,過去の時点における承諾を命ずることはできないのであるから,現時点で契約締結義務を負っていない者に対して承諾を命ずることはできない。受信契約を締結している受信設備設置者でも,受信設備を廃止してその届出をすれば,届出時点で受信契約は解約となり契約が終了する(放送受信規約第9条)ことと対比すると,既に受信設備を廃止した受信設備設置者が廃止の後の受信料支払義務を負うことはありえない。仮に,既に受信設備を廃止した受信設備設置者に対して判決が承諾を命ずるとすれば,受信設備の設置の時点からその廃止の時点までという過去の一定の期間に存在するべきであった受信契約の承諾を命ずることになる。これは,過去の事実を判決が創作するに等しく,到底,判決がなしうることではない。原告が受信設備設置者に対して承諾を求める訴訟を提起しても,口頭弁論終結の前に受信設備の廃止がなされると判決によって承諾を命ずることはできず,訴訟は受信設備の廃止によって無意味となるおそれがある。』

要するに受信設備(テレビ)を廃止してしまったら、NHKからの訴訟自体が成り立たなくかも知れませんよということです。もちろん実際に裁判をやってみなければこのとおりになるかどうかは判りませんが、少なくともテレビを廃棄してテレビが無い状態であればNHKとの契約義務もその時点では無くなるのは事実です。本当にNHKに受信料を支払いたくないのなら、テレビを捨ててしまうのも(廃棄した証拠書類は必ずとっておいて下さい。)一つの手ということです。

 

今、現にNHKから請求書が届いている方で、しかも請求されている期間が5年以上前のものでしたら、裁判手続き等の時効中断事由が無い限り時効援用が可能です。「もちろん耳をそろえて全額払ってやる!」という方はそれで結構なのですが、そうではない方は一度検討してみてはどうでしょうか。