平成29年12月6日の最高裁判決の前に

本年(2017年・平成29年)12月6日にNHKの放送受信契約についての最高裁判所の判決が出されます。

現段階(平成29年12月3日時点)では判決は出ておりませんので、今回の裁判の論点と見込みについて解説します。

今回の裁判の論点としては、報道されている情報を元にしますと、

 

1.放送法の規定の違憲性について

2.放送受信契約がどのような条件で成立するかについて

3.放送受信契約が成立した場合、どの時点から受信料が発生するかについて

 

の3点であると考えられます。(訴状等を見たわけではございません。報道で知り得たものを前提にしていますので事実と違う場合はご容赦下さい。)

 

NHK受信料についての放送法の定めは違憲か合憲か
最高裁判所

1.放送法の規定の違憲性について

 放送法64条は『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。』と定め受信機(テレビ)を設置した者に対して放送受信契約を求めています。この規定が契約の自由を侵害し、憲法の各規程(おそらく13条「個人の尊厳」、19条「思想、良心の自由」、21条「言論の自由」、29条「財産権」等)に違背するものであるか否かという論点です。もちろんNHKは合憲の立場です。

 過去の判例では憲法に放送法は違反していると主張は全て否定されています。もし、放送法の規定が憲法違反となれば、放送法を根拠に放送受信契約を半ば強制し受信料をテレビ設置者から徴収しているNHKの経営の在り方そのものが崩れることになります。NHKは民営化するか、国営放送として税金での放送(したがって職員は公務員)となるかのいずれかの方向に行くことが言及されることになるでしょう。

 受信料は、テレビが設置されると放送法により契約締結を実質的に強制し徴収され、しかも契約でありながらテレビがあるのであれば解約出来ないなど、実質的に税金に等しい状況となっています。これを国でも地方公共団体でもない一団体が徴収することが出来るというのは、大変いびつな状態と私は個人的に考えています。最高裁がなんらかの方向性を促すのか(立法は国会の仕事ですので)、それとも現状容認となるのか、興味深いです。

 

2.放送受信契約がどのような条件で成立するかについて

 NHKは今まで、NHKからの放送受信契約の申し入れから2週間を経過すると契約が締結されるとの主張をして来ました。そんな事を書いてある法律はありませんので、NHK独特の主張ということになります。「契約」という以上、その成立には「申し込み」と「承諾」、または双方の「合意」が必要ですが、放送法がテレビを設置した方は契約を締結するというある意味、民法などの法律や条理を無視したつくりになっているため問題となってしまうのです。今までの判例は、「民法414条2項ただし書により,受信契約の締結に応諾する意思表示を命ずる判決によって」契約が成立するというものがありましたが、最近、NHKの主張に沿った判決(NHKから申し込みがあって2週間で契約が成立)を出した下級裁判所があったようです。

 放送法の文言上からいえば、「テレビを設置した瞬間に契約が成立」となるのでしょうが、そんなことは現実に確定させることは不可能です。設置した人が自己申告で「テレビを設置したので契約します」とNHKに申し入れするか(NHKはまず確実に承諾します。)、NHKがどうもテレビを設置してそうだと踏んだ方に「テレビ設置してるんだったら契約して」と申し込みそれを「承諾」した場合に受信契約が成立し、そこから受信料支払い義務も発生しているのが実務的・実体的に一般にみられる形です。

 もし、NHK側の主張に沿った判決となったら、NHKは一方的に未契約者に通知して受信料を請求出来るようになり、これが嫌ならテレビを設置したとされる側は裁判によって契約不成立による受信料支払い義務不存在の確認を求める訴訟を行うしかなくなります。今までは受信料の契約成立を求めるNHK側から(NHKが確証を掴んでいたケースに限り))裁判を起こしていたのですが、今後は単なる通知で契約が成立したことにされてしまいますので、一般消費者の側から訴訟をするしかなくなる(あるいはNHKから受信料請求訴訟を起こされる不安を感じながら未払とする。)わけです。自ら裁判を起こすのは大変な負担ですので、多くの方々はそのまま不満を感じながらも泣き寝入りすることになる可能性が大きくなると思われます。NHK受信料に疑問を持つ一般の方にとってはこれが一番つらい判決となるでしょう。

 

3.放送受信契約が成立した場合、どの時点から受信料が発生するかについて

 過去の判例はいずれも契約成立時ではなく、受信機を設置した日(放送受信契約規約の定めに従いその月分)からとなっています。放送法64条の定めからすると双方合意した時に受信契約が成立するのではなく、受信機を設置した日に契約が成立するということになるので裁判官の目から見たら当たり前といえば当たり前でしょう。

 そしてこの放送法64条の定めがあるから、NHKは受信契約の承諾をもらえない方に対し、「テレビがある」と証拠を掴んだ場合に裁判での契約締結を求めてきているのです。放送法の定めが有効であることを前提とすれば、今までの判例を認める形の判決となると思われます。放送法の定めが有効でない、違憲であるとの結論になれば、双方合意して契約したときからとなるでしょう。いずれにしても上記の1、の違憲かどうかの結論に左右されるものと思います。

 

確実なことは・・・・5年の時効援用だけ!

もちろん判決が出る前の現段階(12月3日時点)で確実なことは言えません。しかし、一つだけNHK受信料で先に最高裁判所の判決(判例)が出て確定していることがあります。それが時効期間は5年であることです。(平成25年(受)第2024号 放送受信料請求事件)

5年以上前の分の受信料は、時効援用の手続きを行うことにより支払い義務が消滅します。※1 NHK受信料時効援用、これだけが法的にNHK受信料の支払義務を免れる唯一の道です。※2 これは、12月6日の判決がどのような形になろうと変わりません。たとえ放送法が違憲とされても、過去の受信契約に遡及効(遡って修正する効力)が認められるとは現実的に考えづらく、今まで有効に成立している受信契約はそのまま有効となるのでしょう。そうすると受信料支払い義務も当然あることになり、5年を経過しているものは時効援用の対象となるのです。5年以上前の受信料をNHKから請求されているならば、お手続きを検討してはいかがでしょうか。

 

※1 既に裁判で判決がとられているなどの時効中断事由がある場合を除く。

※2 生活保護などの受信料免除規定に該当する場合を除く。

 

出された判決に対する解説はこちらをご覧ください。